MINERALOGY


【第一講座】
岩石・鉱物・鉱石の違い



玉扇太郎は国語講師を生業としておりまして
家人からも疎まれるほど
言葉尻というものに煩い一種の病気のような癖があります。

 その一環として
言葉の定義づけというものにやたらこだわるところがございまして
例えば文ひとつのことを「文章」と言ったり
あるいはその逆であったりすることに
やたら目くじらを立てるのです。

 さて、岩石鉱物の世界でも
言葉の定義というものはやはり存在します。

その最も基本となるのが
今回の表題となっております
「岩石」「鉱物」「鉱石」のそれぞれの定義であります。

 まず「石」の最小単位は「鉱物」です。

 「鉱物」を簡単に定義づけますと
常に一定の化学式で表すことができ
規則的な配列で
これ以上分解すると
ただの元素としか言えなくなるものであります。

 鉱物の生成については
別の項目で詳しくお話するつもりですが
何らかの事情で
地球上にある元素たちが結びついて一つになったものが
鉱物なのであります。

もっとも「金(Ag)」「硫黄(S)」をはじめとする
いわゆる「元素鉱物」は単一の元素で出来ていますので
これらは少し特殊なものになります。

 さて、そのようにして出来上がった鉱物ですが
なにしろ自然界で生々しく繰り広げられる
地殻運動の下で作られるわけですから
生成時さらに生成後においても
常に変化を強いられます。

 当然のことながら
鉱物たちはシャッフルされ
ときには再構築されていきます。

最終的にカチカチに固められて「岩体」となるわけです。

 「岩体」から何かの事情で割り出されたり
転げ落ちたりしたものが「岩石」です。

 したがって「岩石」は
いくつかの「鉱物」の集合体ということになるわけです。

もっとも
たまたま単一の「鉱物」でできている「岩石」もあるわけです。

 たとえば「かんらん岩」と言えば
「かんらん石(ペリドット/オリビン)が主体となる「岩石」ですが
純度が限りなく100%に近い場合
区別するためにあえて「かんらん石岩」と言ったりもします。

 また「岩石」が細かく砕かれたものが堆積して固まると
新しい「岩体」となります。
そこから割り出されたり、転げ落ちたりしたものは
「礫岩」「砂岩」となるわけですが
これらも微細な「鉱物」の集合体であることには変わりありません。

 なお岩石には
「火成岩」「堆積岩」「変成岩」という種類がありますが
説明が長くなりますので、別の項目に譲ります。

 さて「岩石」「鉱物」については
お分かりいただけたかと思いますが
それでは「鉱石」は?

 実はこれは、「岩石」「鉱物」を
「資源」として見た場合の呼び方なのです。
ターゲットとなる資源名を冠して「○○鉱石」という呼び方をします。

 おさらいにスペイン、ナバフン鉱山の黄鉄鉱(パイライト)を例に
ひとつ説明いたしましょう.

この鉱山の黄鉄鉱はかなりメジャーな標本で
市場にもよく出回っていますから、わかりやすいと思いますが
母岩つまり「岩石」としては「滑石片岩」であり
その構成要素の主役「鉱物」が「黄鉄鉱」です。
そして「鉱石」として捉えると、「鉄鉱石」ということになります。

 「黄鉄鉱」を「鉱石」と呼ぶ場合は
このように「鉄資源」として意識していることになるわけですから
マニア同士で標本の話をするときに「鉱石」というと
やや違和感があるわけです。

 え? 細かい?
だから家人からも疎まれる?

 はい、否定はしません。