MINERALOGY


【第9講座】
火成鉱床の基礎知識



岩石や鉱物の収集において
気にするべき情報の一つとして
産地となる鉱山の鉱床の成因が挙げられます。



鉱床の成因はいくつかありますが
日本の鉱山で採掘される鉱床のほとんどは「火成鉱床」です。
ですから、今回は
火成鉱床の基礎知識を説明します。



日本でできるマグマは1000℃ほどで
地下400km〜200kmでマントルが溶けることで生成します。



今、地下3000〜2000mまで上がってきたマグマが
冷却しはじめたとします。
1000℃〜800℃では
かんらん石、Caに富む斜長石ができ、
次いで輝石、角閃石が晶出します。



800℃〜500℃では
角閃石、雲母、Naに富む斜長石、石英が晶出してきます。
温度が下がるにつれて
結びつきやすい形に晶出していき
残った構成要素から次の結びつきがされる
この段階的な流れを
「結晶分化作用」と呼んでいます。



最初のマグマの段階で
銅やニッケルなど
硫化物になりやすい元素が大量にあると
分化作用の前段階で
それらが分化沈殿して鉱床を形成することもあります。



結晶分化作用や
それ以前の分化沈殿によって作られた鉱床を
「正マグマ鉱床」と呼んでいます。
クロム鉱床や鉄鉱床が多いですが
日本ではほとんど見られません。
北海道日東鉱山、愛知県中宇利鉱山
兵庫県夏梅鉱山、岡山県高瀬鉱山
ぐらいではないでしょうか。
夏梅鉱山については
正マグマ鉱床ではないという
考え方もあるぐらいです。



分化作用の終盤では
揮発性元素やレアメタルなどが高濃度で残ります。
それらの元素の結びつきで
大きな結晶が伸び伸びと育ちます。
この空間を「ペグマタイト」と呼んでいます。
鉱床学的には「ペグマタイト鉱床」ということになります。
ちなみに日本三大ペグマタイトは
福島県石川、岐阜県苗木、滋賀県田上
と言われています。
また
茨木県妙見山や福岡県長垂の
リチウムペグマタイトは
国の天然記念物に指定されています。



ペグマタイトは
その生成過程から考えても
分化作用の後半で形成される「花崗岩」にできるのが
理屈に合っていますが
閃緑岩や斑れい岩のペグマタイトも存在します。



ペグマタイトには
雲母、長石、石英の巨晶の他
トパーズ、蛍石、リシア雲母、緑柱石、電気石などの
巨晶もできます。
まるで宝石箱のような空間ですね。



500℃〜374℃では
さらに軽くなったガスが上部の岩に侵入し
割れ目に晶出します。
白雲母、トパーズや蛍石などの他に
閃亜鉛鉱、方鉛鉱、輝水鉛鉱、錫石、モリブデン鉱物、
硫砒鉄鋼、自然蒼鉛などが採れるこの部分を
「高温熱水鉱床(気成鉱床)」と呼びます。
石英脈に飛び地のように生成されるイメージです。



スズ、タングステン、モリブデンなどの鉱脈も作られます。



温度が374℃を下回ると
これまで臨界状態であった水が
液体や気体となって出現します。
液体となった水に
残った成分が溶かされ
「鉱液」となって流れます。
これが「鉱脈」を形成します。
これらの鉱脈を「熱水鉱脈鉱床」と呼びます。
日本では明延鉱山が典型的です。

200℃までは銅、鉛、亜鉛などの鉱脈ができ
100℃以下では金、銀などの鉱脈ができます。



同じ熱水鉱床でも
海底火山活動により熱水が海底に出ると
熱水に溶け込んでいた重金属が
急冷されて「硫化物」「硫酸塩」として沈殿します。
これを「塊状熱水鉱床」と呼びます。
日本では東北によく見られ
「黒鉱鉱床」はその代表です。



塊状熱水鉱床がプレート運動で沈み込むと
層状変成がなされます。
これを「キースラーガー鉱床」と呼びます。
これが付加体として地上に出現します。
日本では別子銅山や日立鉱山が有名です。



マグマが炭酸塩岩(石灰岩、苦灰岩)の層に貫入すると
「初生スカルン鉱床」や「二次スカルン鉱床」などができます。
厳密にはいくつかのタイプに分かれますが
鉱山の鉱床について言えば
ほとんどすべて二次スカルンを指し
「接触交代鉱床」と呼ばれています。
当サイトでは単に「スカルン鉱床」としています。



スカルンの鉱山はとても多く
岩手県の釜石鉱山、埼玉県の秩父鉱山、岐阜県の神岡鉱山、
福井県の中竜鉱山、大分県の豊栄鉱山などが有名です。