MINERALOGY


【第12講座】
日本の石(国石) ―翡翠―



日本鉱物科学会という団体があり
この団体が2016年に
社団法人という「会社」のようなものになり
その記念として9月24日の会議で
「国の石」というのを決めました。



そこで決まったのが「翡翠」です。
他候補の顔ぶれは
「花崗岩」「輝安鉱」「自然金」「水晶」
でした。



「輝安鉱」は愛媛の市ノ川が有名で
大英博物館などにも展示されていますが
ややパンチが弱いかなと思います。



「自然金」は
確かに「黄金の国」と言われた日本ですから
うなずけなくもないですが
これもやや必然性に欠けます。



「水晶」は
「日本式水晶」と呼ばれる結晶の形がありますが
これも、説得力はあまりない気がします。



「花崗岩」に至っては
地味すぎて、コメントすら浮かびません。



疑問なのは
なぜ「黒曜石」がエントリーしていなかったのか。
「黒曜石」は
北海道のものなども有名ですが
長野県の和田峠のものは
石器時代の一大ブランドで
東北地方や関西地方にまで交易で広がったと聞きます。
「翡翠」に負けず劣らず
古代日本流通経済の要でした。
「国石」として候補に挙がって
しかるべきでなかったでしょうか。



ともかく
「国石」として「翡翠」が決まったわけですから
いろいろと「翡翠」についてまとめてみます。



まず、一般的に「翡翠」と言うとき
それは「鉱物」ではなく「岩石」として
呼んでいるということ。
「鉱物」と「岩石」の違いについては
本編の第一講座をご参照ください。



「鉱物」としての「翡翠」は
非常に意味合いが狭く
「ヒスイ輝石」という一鉱物名を指します。



通常は
「ヒスイ輝石」単体で成立する石は珍しく
たいていは
様々な鉱物のブレンドになっています。



ですから
一般に「翡翠」と言う場合は
「オンファス輝石」や
「コスモクロア輝石」などが
ブレンドされたミックス岩石の総称なのです。



なお
日本ではこの輝石系の硬い石を
「翡翠」と呼んでいますが
中国ではむしろ
「角閃石」や「緑閃石」などの閃石系の
柔らかい石を「翡翠」と呼んでいます。



前者は「硬玉(ジェダイト)」
後者は「軟玉(ネフライト)」
と呼んで区別しています。
中国製の手の込んだ翡翠細工が目を引きますが
それは「軟玉」という
柔らかい素材の為せる技かもしれません。



ところで
「翡翠」と書いて
「かわせみ」とも読むことをご存知ですか。
これはこじつけでも当て字でもなく
元々中国では
「翡翠」とは「かわせみ」のことだったのです。
ちなみにオスが「翡」でメスが「翠」です。



やがて鳥のカワセミのように鮮やかな石である
ネフライトを指して
「翡翠」と呼ぶようになったようです。



このように鮮やかな印象をもつ「翡翠」ですが
実は純粋なものは透明で
その結晶が無数に密接にからまることで
見た目は白色になります。



よく緑色や紫色のものを見かけますが
緑色は「クロム」、紫色は「チタン」が少量
微量元素として含まれるためです。



「翡翠」の肉眼鑑定は難しく
ベテランは口に含んで舌ざわりで判断すると
聞いたことがありますが
果たして本当でしょうか。



よく見間違える石は
「ロディン岩」や「ネフライト」などで
それらは「化かす」からなのでしょうか
「キツネ石」などと呼ばれています。



よろしければ
あなたも糸魚川の海岸で
翡翠探しにチャレンジしてみてください。



玉扇太郎の現地レポートはこちら。